金メダリストがなぜ市役所職員に? 転機は新聞広告…「人は変われる」レスリングに学んだ人生の教訓――レスリング・土性沙羅
スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。
「シン・オリンピックのミカタ」#75 連載「私のスポーツは人をどう育てるのか」第9回
スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。
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今回は連載「私のスポーツは人をどう育てるのか」。現役アスリートやOB・OG、指導者、学者などが登場し、少子化が進む中で求められるスポーツ普及を考え、それぞれ打ち込んできた競技が教育や人格形成においてもたらすものを語る。第9回は、2016年リオデジャネイロ五輪のレスリング女子フリースタイル69キロ級で金メダルを獲得した土性沙羅。勉強も苦手で、特技もなかったという小学生時代。そんな自分を変えてくれたのがレスリングとの出会いだった。栄光も挫折も経験した現役生活から学んだことを明かしてくれた。(取材・文=藤井 雅彦)
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金メダリストのセカンドキャリアを想像できるだろうか。
後進の指導にあたるケースが多いかもしれない。その道を極めた者にしか伝えられない技術論や精神論がある。同じ台詞でも、発する人間が変われば説得力はまったく違う。お世話になった競技への直接的な恩返しにもなる。
リオデジャネイロ五輪のレスリング女子フリースタイル69キロ級金メダリスト土性沙羅が選んだ道は違った。自らを成長させてくれた教えに対しては感謝の気持ちで溢れていたが、表現方法に関しては指導者を志さなかった。
「もともと話すことが苦手なタイプで、レスリングの技術や心構えといった部分を言葉で伝えられないと思いました。もともと自分は感覚でプレーしていたタイプでもあるので、他人に教える自信がありませんでした。だから現役引退後も、指導者の道はまったく考えなかったんです。たまに母校に顔を出して、練習に混ぜてもらえるくらいでいいかなぁって」
現在は故郷の松阪市役所の職員として、松阪市のPRとスポーツ振興に尽力している。応募はひょんな出来事がきっかけとなる。
引退を公にする少し前、自宅でのんびりしていると母から1通のメールが届いた。新聞広告の一部を撮った写真が添付されていた。
「試合に負けて現役生活に区切りをつけることを決意したタイミングで、悔しさもありながら、やり切った気持ちもありました。私は地元の松阪市にたくさん応援してもらったので、いつか恩返ししたい気持ちはずっと持っていました。送られてきたのは市役所職員を募集する広告で、本当にいいタイミングでした。現役中はレスリングのこと、目の前のことでいっぱいいっぱい。セカンドキャリアについて考える余裕はなかったのですが、母からのメールで不思議と視界が広がった気がしました」
土性ではなく結婚後の苗字で応募し、25人の応募から採用の2人に選ばれた。想像以上に反響が大きく、各種メディアはこぞって金メダリストが選んだ斬新なセカンドキャリアを報じた。