激闘を制して誕生した“小さな”王者たち 【加藤未央のダノンネーションズカップ取材記~2日目】
PK戦の結末がもたらす様々な感情
準々決勝でPK戦の末に敗退した川崎フロンターレU-12。負けが決まった瞬間、それまでゴールマウスを守り続けて来たGKの19番、長田澪バックハウスくんは、人目も気にせず泣き崩れた。長田くんは、実は昨年のダノンネーションズカップから出場して、ゴールマウスを無失点で守り続けてきている。PK戦で敗れはしたが、無失点記録は続いている。
PK戦を前にして緊張しないか聞いてみると、「逆に燃えます」と自信たっぷりに話す長田くんは、実力の裏付けがあってのものだ。ドイツ代表のマヌエル・ノイアーに憧れているという理由は、「なんかカッコイイから」。少し大人びた長田くんの表情が一瞬和らいで、私の顔も思わず緩む。“後ろから声を出してチームを盛り上げる”、“ボールから目を逸らさない”。たくさんの練習や試合の経験を積んできた中で、昨年の優勝メンバーにいたぶん、今年それが果たせなくて悔しいと言いながらも、長田くんの目にはもう涙はなかった。
最後の1試合を残して、観覧用として子どもたちにコートが解放された。良いポジションで見ようと子どもたちが目を輝かせながらピッチに走り込んでくる。あっという間に子どもたちの列でコートが囲まれ、電光掲示板に「横浜F・マリノスプライマリー」「ヴァンフォーレ甲府U-12」の表示が点いた。さぁ、いよいよ決勝が始まる。
試合開始早々に、F・マリノスが先制点をあげた。流れからの鮮やかなシュートを決めたのは、F・マリノスの5番、野頼駿介くん。先制点を決めてからも、F・マリノスは次から次へといろんな角度からシュートを打ってゴールを狙ってくる。F・マリノスは攻撃の手を緩めることなく、甲府も組織的な守備を崩さない我慢強さをみせて、そのまま前半終了。後半は、前半なかなか決定的な攻撃のチャンスを作れなかった甲府がチームの中でもとりわけ身長の大きな9番の内藤大和くんにボールを集めてゴールを狙う。その作戦が功を奏して1点返し、同点のまま試合終了のホイッスルが鳴り響く。勝負はPK戦へともつれこんだ。
今大会3回目のPK戦となった。準々決勝の大宮アルディージャジュニア対川崎フロンターレU-12、準決勝の三菱養和サッカークラブ巣鴨ジュニア対横浜F・マリノスプライマリー、そしてこの決勝戦。何度見ても、固唾を飲んでその一球一球を見届けることしかできないことに、無力な気持ちになる。たった一つのミスで勝者と敗者が決まるその瞬間、両極端の感情が混在するピッチにいる子どもたちの姿から目を逸らしたくなる。
決勝戦のPKを制したのは、ヴァンフォーレ甲府U-12の子どもたち。勝敗が決まった瞬間、甲府の子どもたちは喜びを見せる間もなく、最後のPKを決められなかったF・マリノスの選手に次々と近寄っては肩を叩いて寄り添っていた。試合終了の挨拶を交わす前、主審は選手全員に向けてグリーンカードを掲げた。