現役時代に「腸内細菌」研究で起業 鈴木啓太が考えるアスリートのネクストキャリア
ビジネスに必要なことはサッカーに全て詰まっていた
――2015年に起業してからすでに5年が経ちました。浦和レッズ時代の鈴木さんは、チームの舵取り役であるボランチとして活躍。「強い個性」をまとめるという点では、組織運営と重なる部分はあると思いますが、実際にサッカーを通してビジネス界で生かされているスキルや考え方はありましたか。
「起業した当初は、サッカーとビジネスはそれぞれが異世界で決して重なることはないと思っていました。ただ今は、社会のなかにビジネスという分野があって、そこにスポーツ、さらにはサッカーという世界がある。属しているコミュニティの大きさや、使われている言語が違うだけで、本質的な価値や考え方は共通していることに気づきました。むしろ、ビジネスや会社経営で必要なことはすべてサッカーから学んでいたと実感しています。困ったときは、『チームのメンバー選出は。戦術は。勝負どころ、引き際は。オシム、ブッフバルト、堀といった監督ならどういう采配を振るのか』。そう考えるようにしています」
――これまでさまざまな監督から指導を受けてきた鈴木さんから見て、「常勝チーム」を築けるような、優秀な監督に共通する点はありますか。
「これはもう『観察力』と『伝える力』ですね。チームの勝率を1%でも高めるには、プレーヤー全員が力を発揮して活躍できる環境を整えないといけません。雑談とかで気を抜いている瞬間に見せる、スタッフの仕草、服装、息遣いに表情などをよく観察するようにしています。現役のアスリートの皆さんにはぜひ、指導者が伝える言葉の本心やその言葉を選んだ背景にまで思いを巡らせてみてほしいと思っています」
――観察力、伝える力もそうですが、状況判断や情報処理能力、決断力、勇気、勝つための思考法、自制心など、そうしたビジネスでも必要な能力を高い次元で備えているのがアスリートなんですよね。
「そうですね。基本的な考え方やスキルを突き詰め、足元を固めてきたアスリート。そんな彼らであれば、引退後のキャリアをどこに設定しようと、自分が活躍する業界のトレンドや情報、使われている言語、そしてスキルを習得するだけで活躍する可能性がグッと高まるはずです。『スポーツ以外は何もできない』と自分を卑下することなんてまったくない。僕らもアスリートの腸内細菌の研究を加速させ、アスリートの引退後のキャリア、果ては今後ビジネスのセンターピンになるであろうスポーツ界に貢献していきたいと考えています」
※酪酸菌とは、食物繊維を発酵・分解して、短鎖脂肪酸の一種である「酪酸」をつくる腸内細菌のこと。短鎖脂肪酸には酪酸、酢酸、プロピオン酸などがあり、腸の粘膜のエネルギーとなり、腸管のバリア機能を高めるなどの働きがある。
■鈴木 啓太 / AuB株式会社 代表取締役
1981年生まれ、静岡県出身。高校を卒業後、2000年にJリーグの浦和レッドダイヤモンズ(浦和レッズ)に入団。攻守を支えるボランチとして活躍。2006年のJリーグ優勝、07年のAFCチャンピオンズリーグ制覇などのタイトル獲得に貢献。日本代表では国際Aマッチ通算28試合に出場。イビチャ・オシム監督が指揮を執った期間、唯一全試合にスタメンで出場。2015年シーズンの現役引退まで浦和レッズ一筋を貫いた。引退後は実業家に転身し、アスリートの腸内細菌を研究するスタートアップ企業AuB(オーブ)株式会社(https://aub.co.jp/company/)の代表取締役を務めている。
(記事提供 TORCH)
https://torch-sports.jp/
(谷口 伸仁 / Shinji Taniguchi)