現役時代に「腸内細菌」研究で起業 鈴木啓太が考えるアスリートのネクストキャリア
即実行が信条、アプリ開発者と会った翌日に会社設立の手続き
――鈴木さんは現役最後のシーズン中にAuBを起業しています。現役時代から事業を起こすことを意識されていたのでしょうか。
「いえいえ(笑)。ただ、便がすっきりと出ると身体の調子が良く、残便感があると思うように身体が動かない。また僕は難を逃れましたが、2004年3月に行われたアテネ五輪アジア最終予選のUAE戦で、代表選手の約8割にあたる18人が下痢の症状を訴えて試合直前までトイレにこもる事態を目の当たりにしました。そういった経験を通して『腸の環境を“見える化”できれば、アスリートのコンディションアップにつながるのでは』という思いはありました。それでも当時はまだ『起業』という言葉は僕の頭の中にはまったくなくて、一度しっかり勉強してから社会に出ても遅くはないと思っていたくらいです。だから起業は、まったくの偶然でした」
――そうだったんですね。では、起業にはどのようにして至ったのでしょうか。
「仲の良い知人のトレーナーから、うんちのアプリを開発している人を紹介してもらったのがきっかけです。即実行が僕の信条なので、3日後には会う予定を彼に組んでもらいました。それでアプリ開発者と初めて対面し、話に花が咲いていく中で『アスリートの腸内細菌を調べたら面白くないですか』となり、翌日には会社設立の手続きをしていました」
――ものすごいスピード感ですね。
「事業計画とか、経営ビジョンとかまったく持ち合わせていなかったので、僕自身が一番驚いています。アスリートのうんちからどんな発見があるのか。初めてサッカーボールを蹴った時に似た興奮や好奇心を感じました」
――そもそも鈴木さんは、幼少期から腸内環境への関心が高かったと聞いています。
「そうですね。幼い頃から調理師である母親に『腸の状態がもっとも大切』『便を見なさい』と言われて育ちました。起業して実際に『茶色いダイヤ』であるヒトの便を研究し、これまで『マスターズの陸上選手は一般の高齢者より腸内環境のバランスを乱すような菌が少ない』『一般の方は腸内細菌の全体数のうち2~5%が酪酸菌(※)なのに対して、アスリートのそれは5~10%と約2倍の割合』など、アスリートの腸内環境の研究結果をいくつか発表しています。こうした科学に裏付けされた知見は指導者の方々にはぜひ、知っておいてもらいたいです。
しかしその一方で、アスリート、特に若い人たちには、コンディションの状態を知るために、身体の声にも耳を傾けてほしい。というのも、科学やデータ偏重になりすぎると数値上では体調はベストなのに『パフォーマンスはいまいち』という選手は少なくないんです。例えばですが、『夕食:ご飯、みそ汁、酢豚、ヨーグルト。便:紙が不要なほど、キレがよく色も形もいい奇跡的なうんち。パフォーマンス:1ゴール、1アシスト』のような簡単な『うんち日記』をつけながら、腸内環境とパフォーマンスの関係に向き合ってくれたらうれしいですね」