現役時代に「腸内細菌」研究で起業 鈴木啓太が考えるアスリートのネクストキャリア
プロフェッショナルとして活躍するアスリートたちにも、第一線から退く時期がいつかは訪れる。トップカテゴリーで活躍する多くの選手が、その時引退後のキャリア問題に直面する。16年間、他のチームに移籍することなくJリーグの浦和レッズ一筋を貫き、2015年シーズンに引退してからは実業家として日本全国を東奔西走する鈴木啓太氏に、キャリアの作り方、アスリート経験から得たことについて聞いた。(取材・文=谷口 伸仁)
「うんち」が誘う出会いと起業、アスリートのネクストキャリアは現役時代から始まっている
プロフェッショナルとして活躍するアスリートたちにも、第一線から退く時期がいつかは訪れる。トップカテゴリーで活躍する多くの選手が、その時引退後のキャリア問題に直面する。16年間、他のチームに移籍することなくJリーグの浦和レッズ一筋を貫き、2015年シーズンに引退してからは実業家として日本全国を東奔西走する鈴木啓太氏に、キャリアの作り方、アスリート経験から得たことについて聞いた。(取材・文=谷口 伸仁)
◇ ◇ ◇
――鈴木さんが浦和レッズを退団したのは、2015年シーズンで34歳のときです。現在は、アスリートの便から腸内環境を研究するAuBという企業の経営者として人生を歩んでいます。アスリートのネクストキャリアについて、鈴木さんご自身はどのようにお考えですか?
「実業家として活躍している元日本代表の中田英寿さんが『サッカー選手で終わるつもりはない』と仰っていたように、ファーストやセカンドという区分けをせずに、人生そのものがキャリアだと考えるようにしています。僕は18歳でプロになりましたが、当時のサッカー選手の引退年齢は26歳前後と言われていましたから、『サッカー選手としてやれても、せいぜい30歳ぐらいまで』という意識で現役時代を過ごしていました」
――浦和レッズに入団した当初から引退後のキャリアが頭にあったのですね。
「そうですね。チャンスがあれば貪欲に人に会いに行っていました。また、『40歳にもなると、飛び跳ねながら応援した翌日の仕事は身体にこたえる』といったサポーターの声を聞くたびに、『年齢を重ねても、スタジアムに元気に足を運んでもらうには?』『サッカー選手としてファンに還元できることは何だろうか』ということを現役の頃から意識していました」
――現役中に競技以外のことにも関心を持ち、アンテナを張っておく必要はありそうですね。
「現役のアスリートにはそれは強く訴えたいですね。僕の場合は、興味関心が『腸内環境』で、いろいろな偶然が重なって起業に結びつきましたが、選手は必ずいつか引退し、その後、生活の土台を自分自身で築かなければなりません。アスリートのネクストキャリアの重要性は声高に叫ばれているのに、夜ブログを書いて投稿していると『競技にのみ集中しろ』とちくりと刺される。誰も僕の将来を保証してくれるわけではないのに」
――(笑)。鈴木さんはネクストキャリアの成功事例になると思いますが、現役選手はどのように生活を送ればいいでしょう。
「通信制の大学に通う、強力な武器になる国家資格の参考書を読む、毎日新聞を読み世の中の流れを把握しておく、英単語を毎日5つ覚える……。なんでもいいですが、引退後の自分の姿をイメージし、それに必要なアクションを1日1時間でいいから生活の中に取り入れて勉強しておくことは必要だと思います。
これはアスリートとして競技を疎かにしてよいと言っているのではありません。アスリートにとって競技でベストのパフォーマンスを発揮できるようトレーニングを積んで、コンディションを管理することが大前提です。僕自身、大先輩から『ハードな練習で体は疲れているかもしれないけど、会社員に比べれば時間はある。現役のうちにしっかり勉強だけはしておけ』と口酸っぱく言われていました。先輩の言葉の意味が理解できたのは、引退してからですけれども……」