[THE ANSWER] スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト

スポーツ英才教育の是非 元Jリーガーが指摘する「保護者が陥りやすい」愛情の罠とは

自分の息子に24時間体制でサッカーを徹底的に教え込み、バルセロナの選手にする! 元Jリーガーは、自分が過去に言い放った言葉を恥じていた。鹿児島実業高校で全国高校サッカー選手権の初優勝に貢献し、アビスパ福岡、横浜F・マリノス、大宮アルディージャといったプロチームで活躍した久永辰徳氏だ。

「FCアラーラ鹿児島」で代表を務め、育成指導にあたる久永辰徳氏【写真:平野貴也】
「FCアラーラ鹿児島」で代表を務め、育成指導にあたる久永辰徳氏【写真:平野貴也】

元Jリーガーの久永辰徳氏が指摘する親の指導の難しさ

 自分の息子に24時間体制でサッカーを徹底的に教え込み、バルセロナの選手にする! 元Jリーガーは、自分が過去に言い放った言葉を恥じていた。鹿児島実業高校で全国高校サッカー選手権の初優勝に貢献し、アビスパ福岡、横浜F・マリノス、大宮アルディージャといったプロチームで活躍した久永辰徳氏だ。現在は、故郷の鹿児島県姶良市で「FCアラーラ鹿児島」という小・中学生を対象としたクラブチームで代表を務め、育成指導にあたっている。成長のスピードの早い子をもっと伸ばすために、どうやって勝負に本気で取り組ませるか。成長のスピードの遅い子にどうやって成功体験をさせ、喜びや自信を感じさせるか。チームを立ち上げて9年目、実績を積み上げる中で、育成とは何かを学んできた。

 しかし、子を持つ親になったばかりの頃は、保護者が陥りやすい罠に陥っていたという。

「プロ選手が24時間付きっきりで教えれば、絶対にプロスポーツ選手になれると、本気で思っていました。プロである自分の息子だから、きっとできるとも勝手に思っていました」

 プロ経験者でなくても、こういう親は多い。可能な限りの手を尽くして、我が子を成功に導いてあげたいと思うのだ。そのために、子どもより先回りをして必要な準備に取り組んでしまう。しかも、そのリスクに気付かない。久永氏にとってみれば、プロの世界で培った知識、経験を英才教育という形で息子に還元することは、純粋な愛情だった。

 長男を福岡のバルセロナスクールに通わせ、地元の少年団でも指導を手伝い、それ以外にも直接指導を行った。すべては「良かれ」と思って取った行動だ。高みを目指すため、サッカーを教える場では、ほかの子どもよりも息子に厳しく接した。ほかの選手を引き合いに出し、優れていない部分を叱責した。ほかの選手を怒りたいときも、我が子に思いをぶつけた。そうすることによって、練習に臨む緊張感を高めようともした。

 久永氏は当時「足が速いわけでもなく、リフティングも思うほど上達しないし、できずに怒られると泣いてしまう」と思うような指導効果を感じられず、もどかしさを感じていたという。設定した目標と期待値が高過ぎた。だが、それよりも大きな問題があった。久永氏は、ふと「何だか、オレにサッカーをやらされている感じになっているな……」と気付いた。

「オレ自身は、高校までピッチと家でオンとオフを切り替えていた。24時間サッカーのことを考えるようになったのは、本気でプロになることを考えた高校のとき。アイツは、まだ小学校の低学年なのに、ピッチでも家でもずっとオレが付いている。窮屈で、嫌だろうな……。あれ? オレがプロサッカー選手にしたいだけなんじゃないか?」

 人は皆、自分で本気になって取り組んだときに、大きく成長する。逆を言えば「やらされている」状態では、大きな成長は見込めない。大人が本気で取り組む姿勢が、子どもを本気にさせる部分もないわけではない。しかし、本気になるきっかけを与えることと、大人の力で本気にさせようとするのは、まったく違うことだ。後者は、場合によっては成長を阻害しかねない。

1 2
W-ANS ACADEMY
ポカリスエット ゼリー|ポカリスエット公式サイト|大塚製薬
DAZN
ABEMA
スマートコーチは、専門コーチとネットでつながり、動画の送りあいで上達を目指す新しい形のオンラインレッスンプラットフォーム
THE ANSWER的「国際女性ウィーク」
N-FADP
#青春のアザーカット
One Rugby関連記事へ
THE ANSWER 取材記者・WEBアシスタント募集