「子どもは大人のミニチュアではない」 格闘技ドクターが語る、スポーツ指導者の誤解
頭を打ったときは、元気でも受診を
サッカーボールが頭に当たった、パンチや蹴りなどの打撃をくらった、バランスを崩して頭から落下した……。頭部外傷の原因は千差万別です。さらに厄介なのは頭蓋内で出血が起こっていても外からは分からないことです。
脳細胞自体には痛覚は無いため、頭を打ったとしても症状の程度に応じた痛みがあるわけではありません。これが膝をぶつけたのでしたら、これくらい大丈夫、これは立ち上がるとマズい、と脳が察知するわけですが、脳のダメージは脳が判断できないのです。ですから自覚症状がなくしばらく元気でも、突然意識を失って危険な状態になることがあります。特に子どもの脳の血管は細いため、大人に比べて物理的にも脆弱(ぜいじゃく)であり、出血のリスクは高まります。頭を打ったときは必ず病院で検査、および診断を受けましょう。CT検査などで異常がなくても、少なくとも72時間は家族が目を離さずに本人の意識の変容をチェックすることが大切です。
脳震盪(のうしんとう※3)は頭を打って一瞬意識を失ってもすぐに戻ります。出血や骨折といった明らかな器質的異常を伴わない上、これといった治療法も無いため、頭部外傷の中では軽症と思われがちです。そのためすぐ練習に復帰してしまうケースが後を絶たないのですが、脳震盪を起こした後はしばらく運動を禁止するほうがよいでしょう。
脳震盪には「セカンドインパクトシンドローム」と呼ばれる現象が報告されています。科学的解明の点においてまだ議論があるところですが、「脳震盪を起こして短期間のうちに2度目の衝撃を受けると、取り返しのつかないダメージにつながる」というものです。ある武道で一度ダウンをした選手がすぐに立ち上がり、セコンドの声に押されて再び戦いに向かった瞬間に再度打撃を食らい、そのまま帰らぬ人となったケースも報告されています。
セカンドインパクトシンドロームは重症化しやすく、致死率は50%とも言われます。1度目の衝撃で脳内の電解質に狂いが生じ、2度目の衝撃で腫脹した脳細胞が破裂する、という可能性も報告されています。後遺症が残りやすいので細心の注意が必要です。コンタクトスポーツの現場では「よくある脳震盪」だと軽く捉えられがちですが、そもそも脳震盪とは「それ以上動いたら危険」と脳が自動的にスイッチをオフにする現象です。練習への復帰は医師と相談した上で慎重に、段階的に行われるべきです。