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「子どもは大人のミニチュアではない」 格闘技ドクターが語る、スポーツ指導者の誤解

スポーツドクターとして、これまで数多くの選手をサポートしてきた二重作拓也医師。才能を開花させるためにと、子どものうちから大人と同じ練習をすることは、実は大きな危険をはらんでいる。思わぬ怪我でスポーツを楽しめなくなる不幸な事故を一件でも減らすために、いま指導者が知っておくべきことを語る。(取材・文=はたけあゆみ)

格闘技ドクターの二重作拓也医師
格闘技ドクターの二重作拓也医師

格闘技ドクター・二重作拓也医師インタビュー

 スポーツドクターとして、これまで数多くの選手をサポートしてきた二重作拓也医師。才能を開花させるためにと、子どものうちから大人と同じ練習をすることは、実は大きな危険をはらんでいる。思わぬ怪我でスポーツを楽しめなくなる不幸な事故を一件でも減らすために、いま指導者が知っておくべきことを語る。(取材・文=はたけあゆみ)

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 前回の記事で「早いうちから大人と同じような練習を始めることで、才能が開花するという誤解」についてお話しました。多くの人が「早い段階から練習をやればやるほど結果が出せる」と考えています。小さいうちから大人と同じような練習をさせてしまう背景には、「子どもは身体が柔らかいから、少しくらい無理をしても大人と違って大きな怪我をしにくい」という一面的な考えもあるようです。こうした指導者の誤解と、自身の無理に気づかず大人の期待に応えようとする子どもの間で、悲劇的な事故が数多く発生しています。

 まずスポーツの指導者に理解していただきたいのは、「子どもは大人のミニチュアではない」ということです。これは小児科領域の格言として知られる言葉であり、子どもの本質をそのまま表しています。例えば、人間の全身の骨が完成するのは20歳前後。子どもは骨が未完成な上、成長段階にあり物理的にも柔らかいため、衝撃に弱く、脳や心臓、内臓といった命に直結する部分を守る力も弱いのです。

10代(左)と60代の脳のMRI画像の比較【写真提供:スポーツ安全指導推進機構】
10代(左)と60代の脳のMRI画像の比較【写真提供:スポーツ安全指導推進機構】

 2つの画像をご覧ください。10代と60代の脳のMRI画像の比較です。白く抜けている部分が脳脊髄液(のうせきずいえき)で、隙間の部分を満たしています。この画像から分かるように、子どもの脳は大人に比べて隙間が小さいです。子どもの脳が大きくなる内圧に押されて、子どもの頭蓋骨は成長していきます。いわゆる密な状態、というわけですね。そこに頭蓋内出血などが起きると、隙間が小さい分、短時間で脳が圧迫されて致命的な状態になりやすいのです。

 大人にとっても、脳は十分に守られるべき器官ですが、特に子どもの場合は慎重になるべきです。海外では子どものうちから脳に外力が加わる、脳が揺らされる競技のルールが見直される傾向にあります。例えばサッカーにおいては、アメリカでは10歳以下、スコットランドでは12歳未満のヘディングが禁止されています。また、子どもの直接打撃制空手、キックボクシング、総合格闘技が違法となっている国や地域もあります。「子どもの健康や命を最優先で守る」という観点から見た場合、これら海外の対応は妥当だと思われます。

大人の心臓は胸郭で守られているが、子どもの胸郭は未完成【写真提供:スポーツ安全指導推進機構】
大人の心臓は胸郭で守られているが、子どもの胸郭は未完成【写真提供:スポーツ安全指導推進機構】

 次に、心臓震盪(しんぞうしんとう=※1)について。大人の心臓は胸骨および肋骨からなる胸郭(きょうかく)に守られています。胸郭をいくら押しても、心臓にかかる直接的外力がほとんど無いのは、胸郭が完成しているからです。ところが子どもは胸郭が未完成で、関節も連結しておらず、胸郭を構成する骨も非常に軟らかい状態です。胸部、腹部、背部からの外力が心臓に到達し、致死的不整脈が発生して死に至る、心臓震盪という病態が起きやすいというわけですね。心臓震盪は大人に起きることもあるのですが、圧倒的に子どものリスクが高いのです。

 心臓震盪は、以前は「スポーツ中の原因不明の突然死」としてくくられていたのですが、90年代以降アメリカで報告と病態解明が進み、ボールが胸に当たる、兄弟げんかで肘が入る、空手の試合中にパンチや膝蹴りが胸部に当たるなど、さまざまな状況での発生が報告されています。スポーツ指導者のみならず、子どもを守るべき責務のある全ての大人が「心臓震盪」の言葉と病態を知っておくべきだと思いますし、「未成年の心臓部分への外力は危険」という共通認識をマストで持っておくべきではないでしょうか?

5歳のレントゲン【写真提供:スポーツ安全指導推進機構】
22歳のレントゲン【写真提供:スポーツ安全指導推進機構】

 ほかにも未完成の子どもゆえに生じる問題は山積しています。5歳と22歳のレントゲンを比較してご覧いただければ、子どもの骨や関節がまだ未完成であることが一目瞭然だと思います。このような違いを無視した早期からの反作用を伴う動きや、ピアノなどの過剰な反復運動で関節の変形がみられるケース、成長障害がみられるケースもあります。子どもは大人の期待に応えたい一心ですから、違和感があっても我慢して練習をしてしまいます。結果的に、大人の無理解がそのまま子どもの身体の負担になってしまうのです。

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