【ハンドボール】“小さな夏の奇跡”の終わり 17人の麻生に残った涙と汗と、底抜けの笑顔
故障2人の姿に奮い立った一戦「ただ挑戦するのみ。あとは楽しむだけ」
県大会決勝では先制弾でチームに勢いをもたらしたエース浜田には「キャプテンの分も」という責任感が芽生えていた。「キャプテンが試合に出られないと知り、自分がその分も頑張ろうと決めた。心が決まったら『やってやろう』と余計に気合が入りました」
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インターハイ初戦の彦根翔西(滋賀)戦でも、浜田はチーム最多タイの6得点を挙げる活躍でチームを牽引した。しかし、インターハイの舞台でなお、更なる悲劇がチームを襲った。エース浜田が試合終盤に相手をかわした際に左膝を抱えながら倒れ込んだ。担架で運ばれる浜田の姿にチームには動揺が走った。試合は24-16で勝利したものの、あまりにも痛い代償だった。
「今大会では『怪我でプレーできないキャプテンの気持ちを背負って』と言っていたのに、こういう怪我をしちゃって……。チームにも迷惑かけてしまって……」と浜田は涙で声を詰まらせた。
この日の2回戦、高岡向陵(富山)戦のベンチ。高野主将の傍らには、左膝を固定した松葉づえ姿の浜田がいた。その気丈な姿にチームは奮い立った。
「気持ちを切り替えて、ただ挑戦するのみ。あとは楽しむだけ」(高野)と、開始早々からエンジン全開。先制されるも、麻生らしい機動力を生かした攻撃で食らいついた。
「キャプテンがインターハイ前に怪我をして、昨日は桃(浜田)が怪我したこともあったし、先輩たちがこの大会で引退なので、今日は今まで以上に気合いが入りました」と話していた根本美優(2年)は、倒れ込みながら1点目を押し込んで、チームに勇気を与えた。最後は脚が攣ってしまうほど、アグレッシブなディフェンスから何度も鋭い速攻を繰り出し、エースの穴を埋める7得点の奮闘を見せた。
1年生の千葉楓に先発の座を譲り、悔しい思いをしてきた3年生GKの菅原詩織も、相手エースの7メートルスローを防ぐなど、攻守にわたり粘り強く戦ったが、最後はセンバツ優勝経験を持つ強豪・高岡向陵の前に力尽きた。
小沼監督は試合を振り返り、「相手の方がひとつひとつの実力が上だった。その積み重ねがこういう結果になったのかな」と悔しさを滲ませながらも「自分たちのハンドボールを信じてやれば、またここに戻って来られる気がします」と確かな自信を口にした。
インタビューに答える小沼監督の横では、流れる涙を止めることができないチームメートを高野主将がおどけて笑わせていた。麻生高校女子ハンドボール部は、どんな時も底抜けに明るい。