上野由岐子「不安がないと言えば嘘」 高校生に説いた“自分に期待する思考法”とは
上野が考える「投手は特別」の理由とは…
スーパースターからの言葉に恐縮しきりの原監督だが、もう一つ聞きたいことがあった。自身には投手としての経験がない。ピンチの場面で、どんな声をかけられたらピッチャーはありがたいのか――。日本一の実績を誇る投手の目線から、意見をもらいたかった。
「ピッチャーは他のポジションとは違って特別で、自分の気持ちがボールに伝わるポジションなんです」。投手にとって、自分のボールを信じる気持ちが大事だと語る上野は、こう続けた。
「たとえそのボールが打たれたとしても、バックに守ってくれる仲間がいるからこそ、そこ(仲間)を信じて投げるっていう気持ちがすごく大事。そういうニュアンスで伝えてあげることが一番かなと思います」
世界一となった2008年北京五輪では、決勝までの2日間で3試合413球を投げ抜いた。絶対的エースとして、重圧を跳ねのける堂々のピッチングを見せつけた。長らく日本の女子ソフトボール界を引っ張り、期待を背負ってきた上野だが、不安を感じることはなかったのだろうか。
「不安がないと言えば、嘘になります」。部員からの問いに対し、あっさりと認めた38歳は、大舞台で自らを輝かせてきた“思考法”について続けた。
「でも、不安になっても仕方がない。打てないくらいすごいピッチャーと対戦するかもしれないけれど『これはもしかしたら打てるかもしれない。打てちゃうかもしれない』って思って打席に立った方が、自信を持ってバットを振れるし、いつもだったら見えなかったボールが見えるようになるかもしれない。
そうやって期待をしてあげる方が、自分がよりいいパフォーマンスができるんじゃないかって。自分の中でそう置き換えて、いつもプレーするようにしているので」
インターハイが中止になるなど、高校生もコロナ禍に苦しめられた2020年。上野も所属するリーグの試合が半減し、普段とは違う1年を過ごさざるを得なかった。この状況をどれだけチャンスだと考えられるか。先の見えない日々でも前向きに考えるよう務めた。
「ポジティブになんでもトライしてみると、ポジティブな結果が生まれてくると思う。ぜひ頑張ってください」
参加した部員から「出会えてよかったと思っています」と想いを伝えられた原監督へ、最後にサプライズが用意されていた。座っていた机の引き出しに、ひそかに隠されていたノート。卒業する3年生から感謝の証だった。部員の写真などに加え、上野から直筆のメッセージとサインも記されている。
教え子からのプレゼントに「感無量です」と原監督。上野も満面の笑みで生徒の夢実現を喜んだ。コロナ禍で、例年に比べて生徒の活躍を見る機会は減ってしまったかもしれない。それでもソフトボールを通じて人間的に成長してくれた。最後に贈られた思い出で、原監督は確信したに違いない。
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(THE ANSWER編集部)