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名門高校サッカー部でたった1人の女子マネが戦った 元Jリーガー監督の父と駆ける夏

最後のインターハイ、一生に一度しかない高3の夏「監督と選手と、最高の夏に」

美南さんに対する思いを語った鈴木勝大監督【写真:mika】
美南さんに対する思いを語った鈴木勝大監督【写真:mika】

 父と歩んだ時間も特別なものだった。家で「パパ」と呼んでいる父は、グラウンドで「カントク」と呼ぶ。それは、マネージャーをやる時に決めた約束事だ。最初はやりづらさもあった。「みんなの前で『敬語を使わなきゃ』って、意識をしていたけど、今はもう慣れて当たり前のこと」。高校生活で家族旅行なんて行く暇はなかった。それでも、桐光サッカー部が絆を深めてくれた。

 父にとっては難しさもあった。マネージャーとして本来、やるべきことができなければ、娘であることも関係なく、厳しく叱った。監督とマネージャーの関係は徹底した。「そこがブレると、選手が一番敏感になる。でも、家に帰って玄関を開ければ、引きずらないように。彼女だけ不利になってしまうから」。普通の父娘より長く一緒にいるからこそ、成長も認めていた。

「一つ思うのは、人のことをよく観察しているなということ。なんとなくレールを敷かれて12歳まで生きてきた子が自分の覚悟でこの世界に飛び込み、状況を見て、聞いて判断し、社会に出ても必要な能力をそれなりに学んでくれている。最初、うまくいかない時も私には絶対に愚痴を漏らさず、辞めたいと言ってきたこともない。いろんなことを一つ一つクリアしながらやってくれた」

 マネージャーはあくまで裏方。選手の陰で汗を流し、彼らが全力を尽くせるように自分を犠牲にしてサポートする。それでも、美南さんは「試合で勝ったら自分もうれしいし、『選手権で優勝してみたい』と思って、それを考えていれば大丈夫」と、その楽しさを語る。女子専用の部屋もなく、着替えはトイレ。男子がやんちゃする空間でも「もう、そんなのは慣れました」と笑った。

 そんな仲間と目指す目標が目の前に迫っている。夏のインターハイ。初戦となる2回戦・清水桜が丘(静岡)戦が27日に行われる。

 一生に一度しかない、高校3年生の特別な夏。「勝利の女神」になろう、なんて思っていない。胸にあるのは「自分にできることを精一杯やって、みんなに貢献できるように」ということだけ。昨年は決勝で山梨学院に延長戦で敗れ、準優勝。「サッカーは何が起こるか分からないんだ」と思わされた。「悔しかった。勝ってくれると思っていたので、最後の笛のシーンが印象に残っている。今年は優勝したい」。期待に胸を膨らませ、大きな瞳は目の前にある最後の夏を見つめた。

 監督は「本当はいけないけど、彼女がいることで常に襟を正さなきゃいけないと、よりシビアになった」と明かした上で「私も人として監督として、もっと成長しなければいけない上で彼女が一つの材料となり、部をサポートしてくれている。彼女には引退する時、選手から『お前がいてくれて良かった』と言われるようにしろと言ってきたけど、私自身、少なからず感謝している」と語った。そんな想いを知ってか知らずか。苦楽を共にしたマネージャーは最後に、こう言った。

「自分も今年が最後なので、いっぱい楽しんで、監督と選手と、最高の夏にしたい」

「南で生まれ、美しく育つように」という願いを込め、美南と名付けられた。決戦の舞台は、沖縄。南の島でキラキラと輝き、日本一長い夏にする。

◇インターハイのサッカー男子は7月26日から8月1日まで熱戦が繰り広げられる。今大会は全国高体連公式インターハイ応援サイト「インハイTV」を展開。インターハイ全30競技の熱戦を無料で配信中。また、映像は試合終了後でもさかのぼって視聴でき、熱戦を振り返ることができる。

「最高の夏にしたい」と、夏の大舞台を前に語った鈴木美南さん【写真:mika】
「最高の夏にしたい」と、夏の大舞台を前に語った鈴木美南さん【写真:mika】

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)

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