インタビュー

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インタビュー

「美しくなければならない」バレーボール女子代表“火の鳥NIPPON”の挑戦

就任3年目の中田監督「やっとチームらしくなってきたかなと思います」

 9月14日、FIVBワールドカップバレーボール2019が日本で開幕した。4年に一度開催されるワールドカップは、オリンピック、世界選手権と並ぶバレーボール界の3大大会の一つ。来年に迫る東京オリンピックの前哨戦として、男女それぞれ12チームが参加し、頂点を目指して火花を散らす。

 中田久美監督が率いる女子日本代表“火の鳥NIPPON”は、1977年大会以来42年ぶりの優勝を目指し、試合と合宿を重ねて準備を進めてきた。8月に行われたチャイニーズ・タイペイとの親善試合に勝利。中田監督は「就任からシーズン3年目にして、やっとチームらしくなってきたかなと思います」と仕上がりについて話す。

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「(2016年の)リオデジャネイロオリンピックの後に監督、スタッフが代わって、ゼロからのスタートだったので、ここに至るまでは大変でした。東京オリンピックまで、時間がありそうで意外とない。丁寧にやりながらも荒療治をしたりと、土台と軸を組み立てる作業でした。チームとして世界と戦う中で勝つ難しさや達成感など、さまざまな経験を積み重ねてきた。そのたびに少しずつ前に進んできているとは思っています」

 現役時代は名セッターとしてオリンピックに3度、ワールドカップに3度、世界選手権に2度出場した中田監督。1984年のロサンゼルスオリンピックでは銅メダルを獲得するなど、世界を相手に得た豊富な経験から、世界で勝つには「明確な目的と目標」が必要だと話す。

「日本一を目指すのと世界と戦うのでは、要求されることも違いますし、期待度も違う。明確な目的と目標を持っていなければ、とても立っていられない舞台です。でも、勝負の世界なので絶対はない。数少ない可能性やチャンスに対して、前向きにチャレンジするには、何のためにバレーボールをしているのかがすごく大事になってくるのではないかと思います」

中田監督「チームスポーツはバランス。荒木も必要だし、黒後も必要」

 今回のワールドカップ、そして来たる東京オリンピックの目標は、ずばり「メダル獲得」だ。さらに金メダルを「もちろん」狙うと言い切る。金メダルを見据えて招集したメンバーは、2012年のロンドンオリンピックでは主将として銅メダル獲得に貢献するなど3度のオリンピック出場経験を誇るベテラン、荒木絵里香選手(トヨタ車体クインシーズ)から、今回のワールドカップが初出場となる黒後愛選手(東レアローズ)、最年少の石川真佑選手(東レアローズ)まで年齢層は幅広い。この人選には、中田監督の“つなぐ”想いが込められている。

「チームスポーツはバランスなんですよ。若手だけの勢いでは絶対に乗り越えられないし、ベテランの経験だけだと体力が持たない。だから、経験ある選手を中心に、起爆剤として若手をどう使っていくか。面白いもので、若いセッターを育てるにはベテランのスパイカーを置かないといけないし、若いスパイカーを育てるにはベテランのセッターが必要なんです。東京オリンピックで終わるわけではないので、そのバランスを考えながら、どうやって次につなげていくか。そう考えた時に、荒木も必要だし、黒後も必要。2019年シーズンは黒後より若い石川も登録していますから、そういう選手がどんどん刺激になってチームを勢いづかせることが大事だと思います」

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 チーム最年長の荒木選手は、ワールドカップについて「目標はメダルを獲ること。来年のオリンピックにつながるように良い内容のゲームをして、結果にこだわってやりたいです」と意気込む。これまでワールドカップは翌年のオリンピックの出場権が懸かる大会だったが、日本は開催国枠として出場が決まっている。すでに出場権を得たブラジル、中国、ロシア、アメリカ、セルビアなども参戦するため、今大会はまさに東京オリンピックの前哨戦となる。

 日本は予選を経ずして出場権を持っているが、だからこそ「オリンピックまでの過程がすごく大事。ワールドカップで世界の強豪国を相手に勝って、自分たちの自信をつける大会にしたいです」と荒木選手は話す。黒後選手もまた「オリンピック前年の大切な試合。個人としてもチームとしても内容の良い試合をして、メダル獲得を狙います」と本番さながらの覚悟で臨むつもりだ。

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 荒木選手と黒後選手は一回り以上年齢が離れているが、強豪・下北沢成徳高等学校(前 成徳学園高等学校)出身の先輩後輩だ。「国際試合でもまったく緊張しなくて」と笑顔で大物ぶりを発揮する後輩を、荒木選手は「プレーではワクワクドキドキさせてくれる選手。何をしてくれるのか楽しみなので、伸び伸びと思い切りプレーしてほしいですね」と笑顔で見守る。そんな先輩の思いに応えるかのように、黒後選手は自身のプレーについて「攻撃面では強気でありたい、強い気持ちを持っていたいと思います。対戦相手や見ている方に、それがプレーで伝われば」と胸を張る。

中田監督が目指す「日本のスポーツの価値にもつながる」チーム作り

 これまでも国際大会の開催のほか、未来のバレーボール界を担う将来有望な選手の発掘・育成事業などにスポーツくじ(toto・BIG)の収益による助成金が役立てられているが、バレーボールのさらなる普及や発展に向け、ワールドカップとオリンピックという2つのビッグイベントが日本で開催される意味は大きい。世界最高レベルの戦いが日本を舞台に繰り広げられることについて、「いろいろな方に競技や自分たちの存在を知ってもらえるチャンス。自分たちの一番の使命は勝って結果を残すことなので、結果にこだわってしっかりやっていきたいです」と荒木選手が話せば、黒後選手も「いろいろな方から『頑張ってね』と声を掛けてもらうので、その声に応えたいです」と続く。

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 特に、56年ぶりに東京がオリンピックの舞台になることについて、中田監督は「日本のスポーツ界を大きく変えるチャンスだと思う」と話す。バレーボールは1964年の東京オリンピックで金メダルを獲得し、“東洋の魔女”の異名をとった。周囲からの期待が高く「すごくプレッシャーですね」と苦笑いするが、同時に「だから、やらなければいけないと思いました」と監督に就任した覚悟を語る。それは、日本女子バレーボール界や先人たちが紡いできた歴史を、未来に向けて「しっかりつないでいかないといけない」という想いがあるからだ。

「代表チームが持つ影響力が一番大きいと思うんです。将来を見据えて、いろいろな育成方法や人材発掘方法があると思うんですけど、やっぱり日本代表が憧れの存在でなければいけないと思うし、美しくなければいけない。『美しい』って、勝っても負けても皆さんから称賛されることだと思うんです。私たちが頑張るから子どもたちがバレーボールを始めようと思うきっかけになる、そういうチームを作ることが日本のスポーツの価値にもつながってくると思います」

 9月のワールドカップは「ここでメダルを獲ることが、東京オリンピックでメダルを獲る権利につながる、そんな目標を立てて臨みたい」と話す中田監督。“火の鳥NIPPON”がワールドカップで見せる活躍は、東京オリンピック、そしてその先の未来へとつながっていく。

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中田 久美なかだ くみ

1965年9月3日、東京都生まれ。中学生からバレーボールを始め、2年生の時に知将・山田重雄氏率いる「LAエンジェルス」に入団。1980年、中学校3年生の時に史上最年少の15歳で日本代表入りを果たした。当初はセンタープレーヤーだったが、同年にセッターに転向。1981年に日本リーグ(現Vリーグ)の日立ベルフィーユに入団。現役時代は1984年ロサンゼルスオリンピックで銅メダルを獲得するなど3度のオリンピック、3度のワールドカップ、2度の世界選手権に出場。1989年のワールドカップではベストセッター賞に輝いた。2017年4月から日本代表監督を務める。

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荒木 絵里香あらき えりか

1984年8月3日、岡山県生まれ。小学校5年生からバレーボールを始め、中学時代にはオリンピック有望選手に選出されるなど、ミドルブロッカーとして早くから頭角を現す。強豪・成徳学園高等学校(現 下北沢成徳高等学校)に進学し、春高バレー(全国高等学校バレーボール選抜優勝大会)、インターハイ(全国高等学校総合体育大会)、国体(国民体育大会)優勝の3冠を達成した。2003年にVリーグの東レアローズに入団。1年目からレギュラーとして出場し、ベスト6を受賞すると、同年日本代表メンバー入りを果たす。2012年のロンドンオリンピックでは主将として銅メダル獲得に貢献。結婚、出産を経て、約1年にわたり競技から遠ざかったが、2014年6月に上尾メディックス(当時)で復帰を果たした。2015年に日本代表にも復帰すると、同年にトヨタ車体クインシーズに移籍。東京オリンピックでは自身4度目のオリンピック出場を目指す。

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黒後 愛くろご あい

1998年6月14日、栃木県生まれ。バレーボール指導者の父の影響を受け、小学校3年生からバレーボールを始める。中学校2年生で全日本中学選抜に選出されるなど早くから才能を光らせ、強豪・下北沢成徳高等学校に進学した。2015年の世界ユース女子選手権ではベストサーバーを獲得。春高バレー(全国高等学校バレーボール選抜優勝大会)では2連覇に大きく貢献した。2017年にVリーグの東レアローズに入団。同年に日本代表メンバーに登録されると、2018年のネーションズリーグで国際大会デビューを果たした。

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