インタビュー

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インタビュー

「日本全体にインパクトを」 代表主将が見据える日本ラグビー界の未来

ニュージーランド出身の日本代表キャプテン「誇りと思えるジャージになった」

 日本に魅せられた男がいる。15歳の時、南半球にあるニュージーランドから単身来日した少年は、身長177センチ、体重76キロとラグビー選手としては線が細く、まだあどけなさが残っていた。あれから16年。189センチ、105キロの堂々たる体躯に成長した男は、今年、桜のジャージを身にまとい、ラグビー日本代表キャプテンとしてラグビーワールドカップ2019™日本大会の舞台に立つ。男の名は、リーチ マイケルという。

 日本代表の宮崎合宿が終盤を迎えた7月某日。実戦さながらの練習が行われるグラウンドでは、大男たちが激しくぶつかりあい、軽やかなステップでディフェンスをかわしながら、楕円球を追いかけていた。その中で、大粒の汗が流れる顔に眼光鋭く、人一倍大きな声で仲間に指示を出す男こそ、他でもないリーチ選手だ。ポジションは攻守の要とも言われるフランカー。ハードなタックルで敵を倒し、ボールの元へ誰よりも速く駆け寄る。時にはパスを回すオフェンスラインに参加するなど、ボールのある場所に常に存在。それを可能にする体力と気力を持つ貴重な選手の1人だ。

 今や日本代表の顔ともなったリーチ選手が、初めて日本代表に選ばれたのは大学2年生の時、2008年11月16日に行われたアメリカ戦のことだった。トップリーグの東芝ブレイブルーパスに入団した2011年には、母国ニュージーランドで開催された第7回ワールドカップに日本代表として初出場。2014年には当時のエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)から指名され、日本代表のキャプテンとなった。代表入りから11年、キャプテン就任から5年、日本代表のユニフォームである桜のジャージは「誇りと思えるジャージになった」と大きく頷く。

 ラグビー大国ニュージーランド出身のリーチ選手が、なぜ日本代表に選ばれたのか、不思議に思う方も多いだろう。世界のラグビー協会を統轄するワールドラグビーが定める現行ルールでは、当該国で出生している選手、両親もしくは祖父母の1人が当該国で出生している選手、または3年以上継続して当該国を居住地としていた選手が、代表チーム入りする資格を持つ。リーチ選手は当初、この規定をクリアして代表入りしたが、2013年には日本国籍を取得。現在は日本人プレーヤーとしてグラウンドに立つ。

リーチ選手が感じるジョーンズHCからジョセフHCへのつながり

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 キャプテンとして初めて挑んだ2015年イングランド大会では、強豪・南アフリカに34-32で勝利する大金星を挙げた。サモア、アメリカにも勝利し、歴史的な3勝を飾ったことはまだ記憶に新しいが、日本大会を目前に控えた今、リーチ選手は「やっとですね。ここまで来るのがすごく長かった。前回大会が終わって4年間、かなり長かったです」と苦笑い。初のアジア開催となる大会に向けて、ジェイミー・ジョセフHCを中心に緻密な練習を重ねてきたことを伺わせた。

 2015年のワールドカップを終えた後、日本代表はジョーンズHCからジョセフHCにバトンが受け継がれた。圧倒的な練習量でチームの意識改革に乗り出し、日本代表をワールドカップで勝てるチームへと変えたジョーンズ体制に続き、新チームでもキャプテンを任されたリーチ選手は2人の指導者をどう見るのか。

「2人ともすごくいいコーチです。でも、やり方が少し違います。エディーのラグビーはリーダーシップを重んじるもので、選手に主体性を持つように求めることから始め、最終的に選手がリーダーシップを持ちました。ジェイミーの場合は、最初から選手が自主的に考えてやっていく土台があって、その自主性を生かしたチーム作りをしている。そこが大きな違いかなと思います」

 ジョーンズHCが作りあげた日本代表というチームの土台を、ジョセフHCがさらに発展させていく。ジョーンズHC時代のミーティングでは、HCがチームに必要だと思った考えや戦術を示し、それを選手が咀嚼し、吸収し、実行した。だが、現チームのミーティングでは選手自身が考えて準備をした素材をプレゼンテーションする機会も多いという。HCの交替とともに一からチーム作りをするのではなく、代表チームとして継続した強化と発展を推進。2人のHCの下でキャプテンを務めるリーチ選手は、前チームから成長が継続していることをチームの中心で実感。ジョーンズHCとジョセフHCのチーム作りに「絶対につながりがあると思います」と力強く言い切る。

「みんなが強い覚悟を持っている。心が決まった時も相当強い。それが日本の強さだと思います」

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 日本代表のキャプテンとして迎えるラグビーワールドカップ2019™日本大会。自国開催のビッグイベントに対する期待は大きい一方で、過度なプレッシャーにもなりかねない。だが、「前回大会以降いろいろな経験を積み、キャプテンとしての自信がついた。パフォーマンスも上がってきていると思います」とどっしりと構えるリーチ選手にとっては、モチベーションを高める原動力となっている。

「プレッシャーは常に感じています。でも、プレッシャーはすごく大好き。プレッシャーがないと良いパフォーマンスができない。ワールドカップは日本全体が盛り上がると思うので、そのプレッシャーも楽しみたいですね」

 ワールドカップの舞台で証明したいことがある。それは日本ラグビー界が持つ「強さ」と「覚悟」だ。

「日本には上手なラグビー選手がたくさんいる。世界でNO.1のハードワークをしています。日本代表だけじゃなくて、高校や大学でもみんながハードワークをしている。本当はもっともっと強さがあるのに、ただそれを出せていないだけ。その強さを出したい。そう思ってキャプテンをやっています。

 ワールドカップまでの準備期間は、いろいろなことを犠牲にしないといけない。その覚悟を持って、今までやってきました。日本では高校でも大学でも、みんなすごく気合を入れてやっている。その姿を見て、日本はいいなと思いました。ニュージーランドではオールブラックス(ニュージーランド代表チームの愛称)やスーパーラグビーのレベルになれば覚悟はあるけれど、高校や大学にはそこまでのものはない。日本では、みんなが強い覚悟を持っている。(目標に向け)心が決まった時は相当強い。それが日本の強さだと思います。覚悟は英語でなんて言いますか? 多分、ピッタリはまる言葉はないと思います。日本独特の感覚かもしれませんね」

ワールドカップで子どもたちに見せたいラグビーの面白さとは

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 大フィーバーを巻き起こした前回大会以上に、日本大会ではラグビーのさらなる競技普及や人気拡大を図る千載一遇のチャンスだ。大会の開催には、スポーツくじ(toto・BIG)の収益による助成金が役立てられている。リーチ選手もまた、このビッグイベントを通じて、子どもたちにラグビーの魅力を伝えたいと考えている。

「2015年の大会では、日本が持つ可能性は示せました。その可能性が広がった結果、若い世代も強くなってきている。今回の日本大会はラグビー界だけではなく、日本全体にインパクトを残せる大チャンスだと思ってやっています。

 そして、代表チームが子どもたちにとって憧れの存在にならないといけない。そのための方法はいろいろあるけれど、一番は(体格の)大きな国に勝つことですね。大きな相手に勝つ姿を見せるのが一番かっこいい。それを見て、日本代表選手になりたい、ラグビーをやりたいと思う子どもたちが出てくると思います。試合の勝ち負けも大事だけど、デカイ相手に小さい選手がビビらずに向かって行く姿がすごく大事。日本は体格では一番小さいチームだし、一番パワーもないかもしれない。それでも勝てるからラグビーは面白い。勇気がないとラグビーはできません」

 チームが掲げるワールドカップの目標は「ベスト8」だが、リーチ選手の目はその先もしっかり見据えている。

「勝つことを目標にしていますが、続くことが一番大事だと思っています。この前(2015年)の大会から勝てるようになったチームを、このまま継続することが一番の目標。ここで終わらないこと。若いリーダーも育ってきているし、楽しみですね」

 全世界から20の国と地域を代表する猛者が集結するワールドカップ。「4年に一度じゃない。一生に一度だ。」という大会キャッチコピーで開催される大舞台で、リーチ選手を先頭に「強さ」と「覚悟」を兼ね揃えた日本代表チームが大暴れする。

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リーチ マイケルりーち まいける(Michael Leitch)

1988年10月7日、ニュージーランド・クライストチャーチ生まれ。東芝ブレイブルーパス所属。ポジションはフランカー、ナンバーエイト。日本代表キャップ数59(2019年7月24日現在)。2004年、15歳で札幌山の手高等学校に留学生として入学し、ラグビー部に入部する。東海大学に進学後は1年生から活躍し、2年生となった2008年には、11月16日に行われたアメリカ戦で日本代表に初招集、デビューを果たす。大学卒業後はトップリーグの強豪・東芝ブレイブルーパスに加入し、2011年のワールドカップ・ニュージーランド大会には日本代表選手として出場した。2013年に日本国籍を取得。登録名を「マイケル・リーチ」から「リーチ マイケル」に変更した。2014年に当時のエディー・ジョーンズHCから日本代表キャプテンに任命され、2015年のワールドカップ・イングランド大会では、南アフリカから挙げた大金星を含む3勝に大きく貢献した。ジェイミー・ジョセフHCの下でもキャプテンを務め、日本代表を統率する。

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