インタビュー

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インタビュー

「新たな夢を与えてください」日本ラグビーが成長し続けるために必要なこと

今も鮮明に焼きつく“イングランド大会の奇跡”の記憶

 ラグビーのワールドカップ日本大会が来年に迫っている。一生に一度ともいわれる夢の祭典の自国開催に注目が集まっているが、日本で国民的な関心を呼んだのが、2015年イングランド大会だった。世界的な強豪・南アフリカ代表を破り、「スポーツ史上最大の番狂わせ」と呼ばれた。当時、ヘッドコーチとして日本を率いていたのが、エディー・ジョーンズ氏だ。

 現在はイングランド代表のヘッドコーチを務めるジョーンズ氏は6月30日、7月1日と沖縄県内で行われた「GROWING教室」第1回目のゲストとして登場。高校生向けラグビー教室、スポーツ指導者向け講演会を実施したほか、インタビューにも応じ、当時の思い出を振り返った。あれから3年の月日が流れたが、当時の記憶は今も鮮明に焼き付いているという。

「南アフリカとの試合が終わり、スタンドから降りていく時、多くの日本のファンが涙ぐんでいました。南アフリカのファンの皆さんは悲しんでいたけど、これがラグビー界にとって歴史的なことだと伝わってきました。そして、スコットランド戦では日本で最大3000万人の方がテレビで見ていると聞いた時、スポーツが国民にどれだけの影響を与えるかということを感じることができました」

 当時、日本が最後にワールドカップで勝利を挙げたのは、実に24年前。2015年大会では、世界はもちろん、日本でも期待が高かったわけではない。しかし、ラストワンプレーで逆転し、南アフリカを下した1勝を口火にサモア戦、アメリカ戦にも勝利。1次リーグ敗退にこそなったが、歴史的な3勝を挙げた。なぜ、日本は前評判を覆して勝つことができたのか。

「今までと違うスタイルで戦おう、と勇気をもって戦ったことでしょう。日本のラグビーを貫くという勇気を持っていました。加えて、素晴らしい選手が多く揃っていました。限界を超えられるチームになっていました。チームで一緒に戦うことだけではなく、ラグビーで日本のスポーツ界を変えたいという思いがありました」

 ただ、4年に一度の夢舞台。相手は格上の強豪だ。「勇気」を持って戦うことは簡単なことではない。どう選手の心を掴み、選手に自信を植え付けたのか。ジョーンズ氏は「勇気は信じることから来る」と言う。

「自分はできると信じたら、勇気をもって行動することができます。信じるという部分において、チームにビジョンを与え、なぜこの目的に挑戦するのかという大義を与えました。それは『日本のラグビーを変えること』。毎日のように厳しい練習をし、世界一のハードワークをしている。それが分かれば、選手たちの自信につながる。勇気をもって戦うことができると信じていました」

 日本のラグビーを変える。その思いでフィフティーンが一致団結した結果が、3つの白星に結実した。

「新たな夢を与えてください」、真のラグビー文化定着へ必要なこと

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 当時は国民的な関心事となったが、時とともに感動は薄れてしまうもの。日本でラグビー文化が定着するには「成功の継続」が必要になるという。

「日本においてラグビーが大きな需要を持つものとして扱われるようになるためには成功し続けることが必要です。成功し続けるためには日々、懸命に取り組まないといけない。繰り返し努力し続けるしかないと思います。何か成功したとしましょう。『満足』が次に来てしまうものです」

 大きな成功を得たからこそ、満足を覚え、停滞期が訪れる。では、日本ラグビー界が「満足」を乗り越えるために指導者はどうあるべきか。ジョーンズ氏は「新たな夢を与えることです」と力説する。

「それも、選手たちが達成したいと思える夢。その夢に向け、みんなが達成できるように導いていくこと。スポーツで何か影響を与えるためには、トップカテゴリーが結果を残し、下の世代に波及させていくこと。一方で下の世代からも(競技レベルを)上げていくために子どもたちがラグビーを身近に感じるような活動や普及をしていく。両方を懸命にやらないといけません」

 かつて南アフリカ代表のテクニカルアドバイザーとして2007年ワールドカップ優勝を経験。世界的な名将になってなお、ラグビーという競技が与えてくれたものの大きさに感謝しているという。

「私自身、ラグビーによって与えられたチャンスで人生が大きく変わったんです。オーストラリアはもちろん、南アフリカにも日本にもイギリスにも住むことができ、幸いなことに高いレベルで指導することができています。結果、色々な文化を知ることができました。世界にとって異文化交流は最も重要なことです。世界で起こる問題は文化間の勘違いにより分かり合えないこともありますから」

 だからこそ、ラグビーの普及・発展を願っている。そんな思いと活動を支えている仕組みのひとつにスポーツくじの収益による助成がある。スポーツくじの助成金は、次世代選手の発掘育成、指導者向けの講習会やラグビー教室の開催の他、地域のスポーツ施設の整備まで、ラグビーの普及・発展につながる様々な活動をサポートしている。

「これだけの助成金が活用されているのは知りませんでした。収益がスポーツ界に還元されることはすごく重要です。スポーツを発展させるためにも、子どもたちにどれだけいい環境を提供してあげるかが重要になりますから。日本で行われるワールドカップの開催にも支援があり、とても重要な存在です。心の底から感謝しています」

今なお心は日本とともに…2019年は「終わり」ではなく「始まり」

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 日本開催のワールドカップに向け、注目が集まるのが11月に行われるイングランド対日本のテストマッチだ。イングランドを率いるジョーンズ氏が自国に“古巣”の日本を迎える。

「おもしろいものになるかと思います。日本代表も大好きなチームだし、今はコーチをしていてイングランド代表の選手のことも好きです。だから、心情的には“日本と離婚する”と言っています。その上でイングランド代表に集中し、力を注ぎたいと思っています。しかし、楽しい試合になるでしょう」

 日本も6月のテストマッチ3戦を2勝1敗と上々の内容。絶好の力試しとなるが、ファンはどんなプレーに期待すればいいのか。

「全く違うプレースタイルなので、日本はフリーで速いラグビーをするけど、イングランドはオーソドックスなラグビーをします。それがラグビーの魅力。色々なスタイルのやり方がある。そのどれが正しいというわけでもないので、それぞれのスタイルを楽しんでもらいたいと思います」

 日本は本大会ではアイルランド、スコットランド、ロシア、サモアと同組となることがすでに決まっている。1次リーグ突破へのキーポイントは強豪2か国にあるとみているという。

「スコットランド、アイルランドに勝たないといけません。両方ともタフな試合になるでしょう。フィジカルが求められる試合になります。タイプが異なる2つの国に対し、日本のチームはうまく対応しないといけません。どれだけやらないといけないかはテストマッチでも経験していると思います。特に昨年の6月は、日本がアイルランドのBチームに2回も負けてしまった。ハードワークをしないと勝ち抜けません。しかし、2015年がそうだったように日本なら不可能ではない。達成できると思います」

「イングランドはもちろん、決勝を戦う予定です」と自信を浮かべながら、日本に期待を込めたジョーンズ氏。しかし、ラグビーがワールドカップを経て、文化として定着していくためには「満足」を乗り越え、「成功」を継続させること。2019年が終わりではなく、始まりとして日本全体が認識する必要がある。

「ラグビーの文化はリスペクト、尊重することがすごく重要です。どのチームにおいても尊重する価値観があると思います。自分を尊重し、相手のチームも尊重する。レフェリーもリスペクトし、施設もファンもリスペクトする。そして、意味ある形でコミュニケーションを図っていく。そういうラグビーの良さが日本でも根付いていってほしいと思います」

 最後に日本ラグビーの未来に向け、温かいメッセージを寄せてくれたジョーンズ氏。日本を愛し、日本を育てた世界的名将の心は今なお、日本とともにある。

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エディー・ジョーンズ

1960年1月30日生まれ、オーストラリア出身。現役時代はフッカーを務めた。プレーの傍ら、大学卒業後は高校の教員として体育を教えた。1995年に来日し、日本で指導者のキャリアをスタート。2001年にオーストラリア代表ヘッドコーチに就任し、2003年ワールドカップで準優勝。2007年から務めた南アフリカ代表のテクニカルアドバイザーでは同年のワールドカップで優勝。2011年に日本代表ヘッドコーチに就任し、2015年ワールドカップでは1次リーグで敗退するも歴史的3勝を挙げた。現在はイングランド代表ヘッドコーチを務める。

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