インタビュー

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インタビュー

銀メダリストが49歳になっても走る理由 世界マスターズ陸上に挑む姿

陸上 朝原宣治氏

銀メダリストが引退から10年後に復帰したワケ

 49歳になっても記録を追っている。2008年北京オリンピックの4×100メートルリレーでは、日本男子トラック種目初のメダル獲得に貢献した朝原宣治氏。大会後の9月に36歳で現役を引退した。指導者の道に進んだが、2018年に競技復帰。目指した舞台は世界マスターズ陸上競技選手権大会だった。

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 35歳以上の選手が5歳ごとのクラスに分かれて競う隔年開催の大会。「トップ選手になればなるほど、(現役時代と)同じ種目をやるのは嫌なんですよ」と当初は乗り気ではなかった。メダリストとして注目を浴び、勝つのが当たり前の見方をされると楽しめない。「負けるのが嫌。どうしても変なプライドがあって」。では、再び走る理由は何だったのか。

 きっかけは、一つの誘いだった。引退から10年経ち、少しずつ体力の低下を感じていた2018年2月。現役選手の指導で沖縄合宿に行った際、マスターズ陸上競技で活躍する譜久里武(ふくさと たけし)氏と食事に出かけた。「実は9月に世界大会があって。もし(リレーの)メンバーに入ってくれたら、金メダルだけじゃなく、世界記録が出るかもしれない」。この言葉に心が揺れた。

「世界で金メダルを獲ったこともないし、世界記録という響きもいいなって。僕の心に響きました。その場で盛り上がってやることになってしまった(笑)」

 現役時代の自己ベストは10秒02。日本記録を何度も更新したが、復帰を決意した後は身体作りに苦労した。イベントで見本として走るくらいしか運動をしていなかったため、怪我の心配が大きい。「筋肉がペッタンコ。身体への負荷の高いスパイクは怖くて履けない時期もあった」と練習は慎重に進めた。

 身体の反応は現役時代と異なり、筋肉はつきづらかった。「別の競技をやっているみたい」。選手は空いた時間をケアに充てられるが、今では普段の仕事との両立が必要だ。現役時代にはいろいろな練習方法を実験的に取り組んでいたが、トライ&エラーのプロセスは今も変わらない。指導者経験で引き出しも増えた。再び挑戦する日々の中、心身ともに健康になっていく過程を実感できた。

「徐々に回復が早くなったり、この年齢になっても少しずつ筋肉が増えたり。運動をしていなかった時は土、日曜にイベントで身体を動かして、次の日に会社に行くのがとても辛かった。でも、動くことが普通になったのですごく楽になり、気持ちも前向きになりました。誘われて始めましたが、やるからには自分の記録も更新したいし、勝ちたい。目標を持ってやるのが身体を動かすモチベーションになっています」

 復帰を決めてからおよそ7か月後の世界マスターズ陸上競技選手権大会。4×100メートルリレーのM45クラス(45~49歳)に46歳で出場し、43秒77というタイムで金メダル獲得に貢献した。さらに2019年12月には、アジアマスターズ陸上競技選手権で43秒27の世界記録を樹立した。

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