インタビュー

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インタビュー

「子どもの目指す場所ができた」 日本に与えたB.LEAGUE誕生の意義

バスケットボール 富樫勇樹選手(千葉ジェッツ)

男子プロバスケットボール・富樫勇樹選手が語るB.LEAGUEとファンの関係

 スポーツから喜びを得ている。男子プロバスケットボール・B.LEAGUEの千葉ジェッツに所属する富樫勇樹選手。身長167センチながら、スピードと高いシュート力を武器に日本を代表するポイントガードに上り詰めた。現在27歳。両親の影響で幼い頃からスポーツ観戦が趣味だった。オリンピックや世界大会など、バスケットボールだけでなくその他の競技もテレビで放送していればファンのように楽しんでいる。

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「子どもの時からスポーツを観ることは習慣化していました。選手を知らなくても観ます。各競技それぞれの魅力があると思いますね」。自身はプレーヤーだが、「する」側だけでなく、「みる」側の楽しみ方も知る。だからこそ、スポーツが社会に提供できる価値についてこう考えている。

「僕も一選手ではありますが、オリンピックや他の競技を見て元気をもらったり、活力になったりすることが凄くあります。他の人にも自分のプレーでそうなってもらえたら嬉しいですし、バスケットボールでそう思ってもらえたら本当にいいなと思います」

 7歳からバスケットボールを始めた。中学3年の時に全国中学校バスケットボール大会で優勝。高校はアメリカの名門モントローズ・クリスチャン高等学校へ進学した。卒業後は秋田ノーザンハピネッツに入団。その後、NBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション/北米のプロバスケットボールリーグ)挑戦を経て、22歳だった2015年9月に現チームと契約した。そして2016年9月から始まったのがB.LEAGUEだ。

 B.LEAGUEは、2016年9月に開幕したプロリーグ。エンターテインメント性の追求や地域に根ざしたクラブ運営などにより成長を続け、今季(2020-21シーズン)で発足から5年目のシーズンに入った。富樫選手は2018-19シーズンに、レギュラーシーズン最優秀選手賞を受賞するなどリーグを代表する選手に。富樫選手はB.LEAGUE誕生が日本のバスケットボール界に与えた意義についてこう語る。

「もちろんB.LEAGUEの誕生で日本のバスケットボール環境は、本当に良くなったと思います。僕以上に、バスケットボールが好きな子どもたちや頑張っている学生たちに影響を与えたというか、目指す場所ができた気がしますね。正直、僕が中学生の頃、周りにはNBAやJBL(日本バスケットボールリーグ/企業チームとプロチームが混在したリーグ)、bjリーグ(日本プロバスケットボールリーグ/プロリーグ)を明確に目指している、プロになりたいという選手はほとんどいなかった記憶があります」

 日本でバスケットボールをする子どもたちにとって、目標となる舞台ができた。そんなB.LEAGUEは日本人選手のレベルが年々高まっているだけでなく、NBA経験のある外国籍選手が徐々に増加。富樫選手は「リーグ全体のレベルが高くなっていると思います。クラブの環境がよくなったことで外国籍の選手が増えていると思うので、そこは感謝したい部分の一つです」と言葉を並べた。

 ファンとの距離が近いのも魅力の一つ。「毎試合後にサインや写真撮影の対応を2人ずつローテーションでやっていました。そうやって交流できる場所は多いのかなと思います」。コロナ禍で以前と比べると選手とファンの交流の機会は減ってはいるが、千葉ジェッツでは感染対策をしながら、好きな選手との3分間の「1on1トーク」をオンライン画面越しに実施するなどファンにとってもチームを身近に感じられる機会は多い。

プロとファンの小さな繋がりが大切「その人の人生を変えられる」

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 切っても切り離せないファンとの関係。しかし、2020年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、3月14日に初めて無観客試合を経験。1試合平均約5,000人を集めるホームアリーナから歓声がなくなった。「アリーナに入った瞬間から雰囲気が違う」。勝利を目指すことに変わりはないが、それでも、心境の変化を感じた。

「何か気持ちの部分でかなり違うものがありました。ただ勝ちたいだけではなく、観に来ているお客さんに喜んでもらいたい。そういう気持ちがあったんだと改めて感じました。あの試合は負けてしまいましたが、勝っていたとしても何か物足りなさを感じただろうなと思います」

 3月末には、残り試合の中止が決まった。突然のシーズン打ち切り。プロとして自分を最も表現できる場を失った。スポーツは人に活力を与えられるもの。選手たちはファンへの想いがより深まったという。

「僕もそうですが、周りの選手も『ただプレーすることが幸せなことなんだな』と改めて感じました。もちろん、それはわかっていたことではありますが、やはりお客さんあってのB.LEAGUEなんだと思いました。試合を観に来てくれる人に対して一試合、一試合しっかり自分のプレーを見せないといけない。よりそう思うようになりました」

 コロナ禍で人と人との間に距離ができてしまったが、今はSNSで交流できる時代。「インスタグラムやツイッターで『いいね!』を一つ押すだけでも喜んでもらえる」。富樫選手の脳裏にあるのは幼い頃の記憶。選手とハイタッチした時の感情は忘れられない。

「プロの選手とハイタッチできたことはずっと覚えています。何か一つのことで、その人の一日、もしかしたらその人の人生を変えられることもあるんだなと思いました。小さなことでも本当に喜んでもらえる。自分も誰かにとってそんな存在になれたらいいなと思います」

 B.LEAGUEの選手として責任感を滲ませた。

日本でバスケットボールの価値を高めるために

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 自身も高校から単身でアメリカに挑戦。技術はもちろんのこと、性格面でも変化した3年間だった。もともとは周囲の友達と積極的に出かけるタイプではなく、自他ともに認めるほど「凄くシャイ」な性格。だが、言葉も通じない環境で試合に出るためには、自分からアピールする必要があった。飛び抜けた実力で当たり前に出番が回ってきたそれまでとは大きな違いだった。

「自分からいかないと日本みたいに誰かが助けてくれるわけではなかったです。少しずつ監督の信頼をもらって、少しずつ試合に出ていく経験ができました。自分でもかなり変わったと思いますし、周りからも言われます(笑)。アメリカでの経験があったから、今の自分がありますね」

 バスケットボールを始めて20年。長いキャリアの中で一つのターニングポイントだった。スポーツから多くを学び「バスケットボールは5人でやるので、一人ではなくチームとして同じ意識を持ってやらないといい方向に進まない。それは何度も経験していることです。いろいろなチームメイトとの出会いがあって、こういうふうに成長できたのかなと思います」と振り返る。

 自身の場合はアメリカでの経験を経て、大きく成長したが、日本の環境の方が合う選手もいるため「ただ海外に行けばいいという話ではない」という。そこで日本の課題に挙げるのが大学だ。「アメリカと日本では大学の差が大きい。しっかりとした環境でできていないというか、(競技に取り組む)意識的な部分で違うということもありますが、環境面で凄く差ができていると感じます」。“プロ予備軍”とされるほどハイレベルな選手が多く集まる本場の設備環境は、日本と比べて素晴らしいものがあるようだ。

 そのような中、日本のバスケットボールの普及・発展のためにもスポーツくじ(toto・BIG)の収益による助成金が活用されている。例えば、B.LEAGUEが主催するU15 CHAMPIONSHIPといった大会の開催や日本バスケットボール協会によるジュニアユースアカデミーなどの若手の発掘・育成事業の他、地域の体育館へのバスケットゴールの設置といった大型スポーツ用品の設置などにも役立てられている。

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 これから日本でバスケットボールの価値を高めるためには、何が必要なのだろうか。富樫選手は「昔から『代表が……』ということはずっと言われている」と説明。富樫選手は負傷により出場できなかったが、2019年に日本代表は13年ぶりにFIBAバスケットボール・ワールドカップへの出場を果たした。しかし、世界のレベルは高く、結果は5戦全敗に終わった。

 そんなくやしい想いを晴らせる舞台がある。東京オリンピックだ。1976年モントリオール大会以来、45年ぶりの出場となる。スポーツの祭典が東京で開催されると決まった時、富樫選手は「出たい」と胸を高鳴らせた。夢舞台まであとわずか。今は出るだけで終わるつもりはない。

「ワールドカップで5戦全敗して帰ってきて迎えるオリンピック。やはり出るからにはしっかりとした結果を求めたいという気持ちが代表チームに凄く出ています。全敗に終わったワールドカップのようではなく、1勝、2勝としていける強いチームをつくっていきたい」

 抜群のスピード、テクニックでゴールを量産しながら、味方にボールを供給する日本屈指のポイントガード。世界を相手にしても縦横無尽にコートを駆け回り、ファンに熱を与えていく。

(リモートでの取材を実施)

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富樫 勇樹とがし ゆうき

1993年7月30日、新潟県新発田市生まれ。小学1年でミニバスケットボールを始め、中学3年の時に全国中学校バスケットボール大会で優勝。高校はアメリカの名門モントローズ・クリスチャン高等学校に進学。2012年に秋田ノーザンハピネッツに入団し、同年にリーグ新人賞を受賞。2014年にはNBAのダラス・マーベリックス傘下のテキサス・レジェンズでプレー。2015年はイタリア・セリエAのディナモ・バスケット・サッサリに入団するも本契約には至らず。2015年9月に千葉ジェッツと契約。2016-17シーズンから2019-20シーズンまで4年連続でベスト5に選出。2018-19シーズンではB.LEAGUE最優秀選手賞を受賞したほか、2019-20シーズンでは初のアシスト王に輝いた。日本代表には2011年に初選出。現在は不動の司令塔として日本代表チームを牽引する。

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