インタビュー

int_711.jpg

インタビュー

“没頭力”が唯一無二の武器 競技歴6年、世界一の裏にある「飽きない」力

東京オリンピック新競技スケートボード、「夢中」が生んだ世界女王の歩みとは

 屈託のない笑顔と真っすぐな瞳。高校生スケートボーダーが東京オリンピックの金メダル候補として注目を浴びている。新競技となったスケートボードの四十住(よそずみ)さくら選手だ。

int_71_1

 専門とするパークという種目は、複雑な形をした窪地状のコースで行われ、空中に飛び出した時に繰り出す技(トリック)を中心に競う。現在高校3年生の四十住選手は2018年に第2回日本スケートボード選手権大会パーク、第18回アジア競技大会(ジャカルタ・パレンバン)、第1回スケートボード・パーク世界選手権(中国・南京)でいずれも優勝した。競技歴わずか6年の実力者が目指すオリンピックの頂き。猛スピードで上達してきた背景には、恵まれた体格、身体能力とは別の、類まれな“没頭力”という武器があった。

 大阪の中心地から車で約1時間半の和歌山県・岩出市で育った。スケートボードとの出会いは小学6年生の時。13歳年上の兄・麗以八(れいや)さんが近所の公園で友達と楽しそうに滑っている光景に目を輝かせた。「凄くかっこいい。仲間に入りたい」。2人兄妹の四十住選手は純粋な子ども心でボードを手に取った。全く馴染みのない競技で、他のスポーツも特別やったことのなかった少女は、未知の世界へと駆け出した。

「褒めてもらうのが凄く好きだったので、お兄ちゃんにスケートボードをもらって練習を必死に頑張りました。お兄ちゃんが友達とスケートボードで遊んでいて、仲間に入りたいと思って一生懸命頑張っていました」

 教えてくれたのは兄だった。最初はペットボトルを飛び越えることが目標。身体を擦りむいたり、打ったりを繰り返した。練習に没頭し気がつけば日が暮れている。半年近く経った頃に最初の目標をクリアした。「飛べた時に凄く褒めてもらえて、褒められるためにもっと練習しようってなりました。褒めてもらったことでスケートボードにハマりましたね」。上達スピードに驚く麗以八さんも、今では「うますぎて教えられへん」と舌を巻くそうだ。

 一つのことに熱中したのは、12年間の人生で初めてだった。1年ほど経つと、両親は学校の教室より少し狭いくらいの自宅の庭にコンクリートを張り、専用練習場に改造。登校前の朝6時半から滑り始め「お兄ちゃんから『めっちゃうるさい』って怒られていたんですけど、ずっと滑ってました(笑)」と昼夜問わず夢中になった。

「和歌山には練習場がないし、大阪や神戸までは通わないといけない。お母さんも仕事がありました。家でできるように練習場を作ってくれたんですけど、音がうるさいので(近所にも配慮して)17時までしか使えませんでした。だから、次第に県外まで練習に行くようになりました」

 神戸の練習場まで往復3時間。母・清美さんの運転で毎日通った。土・日は施設の営業時間の限り練習し、1日12時間もスケートボードに乗った。「お母さんは練習を見てくれるから睡眠時間もないし、凄く大変だと思います」。時には三重まで行くことも。全国大会に出場するようになると、両親が東京まで車を走らせた。

 競技を始めてから練習はずっとこのペース。「楽しいし、飽きないです。1つ技ができても、またやる技があるから」。数えきれないほど存在する技を一つひとつ習得していった。

技は無数にある、大技で世界の頂点へ

int_71_2

 のめり込んだスケートボード。東京オリンピックでは「パーク」と「ストリート」の2種目が実施される。窪地をいくつも合わせた複雑な形のコースで競う「パーク」に対して、「ストリート」は手すりや階段など街中を模したコースで45秒間の自由演技を行う「ラン」と一発の技の出来を競う「ベストトリック」の合計点で競う。四十住選手はストリートではなく、パーク専門だ。

「パークは高さ、スピード、スタイル、技の難易度などを競います。秒数は40秒から45秒の間に3本から4本を滑り、技を入れていく。技の数は何個あるのかわからないですね」

 細かく技術が分かれ、世界中のスケートボーダーが独自に編み出したものもある。四十住選手は1本の滑走で無数にある技の中から12、13個を入れて大会で披露する。実力者が集まる中で上位に入るには「独創性」も大事な要素の一つという。

「1本の45秒の中にたくさん技を入れても12か13個。そこに高さとスピードと難易度の高いトリックを入れられるようにしています。新しい技ができた時は凄く楽しいですね」

 高難度の技は練習を始めて大会で披露できるようになるまで1年半から2年くらいかかることもあるという。中でも四十住選手最大の武器は「バックサイドノーズブラントワンエイティーアウト」だ。湾曲した壁の上でひねりを加える、国内の女子では珍しい大技。1本の滑走の最後に“大トリ”として使い、インパクトを与えている。

 今の課題は高さを出すこと。「毎日、1センチずつ上げようと頑張っています。毎日やり込むしかない」と自分の技を動画で撮影して研究しながら練習に励んでいる。現在は朝6時に起きて学校へ。授業が終わる頃に清美さんが迎えに行き、家には帰らず県外の練習場に向かう日々だ。午後4時には練習を始め、平日なら遅くて11時まで滑り続ける。帰り道の銭湯で汗を流し、深夜1時に帰宅。「寝るために家に帰っている感じ」と車内でも眠りにつく。

スケートボードが交流の道具、人見知りな性格に変化

int_71_3

 一つのことに没頭し、性格に変化が生まれた。小学生の頃は、自他ともに認める人見知り。これを言ったらどう思われるんだろう……。話しかけたくても「その時は自信がなかった」と遠慮がちだった。しかし、いつしかスケートボードが人と交流する一つのツールとなった。

「スケートボードを始める前はこれしたい、あれしたい、あの習い事したいなどもなかったので、夢中になれることがなかった。友達も少なくて、あまり自分の意見を言ったりしなかったんですけど、スケートボードをやって自信がついた。友達も増えて、自分がこうしたい、こうなりたいなど言えるようになりましたね」

 スケートボードが上達し、人と競えるようになって自信がついた。主張できるようになったのが、スケートボードを通じて成長したことだった。最近では「この技をしたい!」というのが練習場での決まり文句。「あの技をやった後に何の技がやりやすいかな」「この技ってどう入ったらやりやすいかな」。スケートボードを起点に仲間との会話が広がっていく。誰にも負けない自信をつけて成長できた。

int_71_4

 海外遠征に行く時は、時間を無駄にしないように飛行機の中で動画サイトにかじりつく。海外選手の研究だ。特に男子選手の高さ、体格の大きさを生かした力強い滑り方や迫力に着目する。自身はハーフパイプの縁で絶妙なポジションを取りながら止まるなど、技術力で勝負するスタイル。だが、好奇心旺盛な四十住選手は「全部やりたいです」と向上心を忘れない。

「みんな応援してくれているので、東京オリンピックで金メダルを獲れるように毎日時間を無駄にしないように頑張らないといけない。今はオリンピックでいい成績を残して、両親にも恩返しをしたいです」

東京オリンピックの新競技採用で環境変化「大きな夢を持てた」

int_71_5

 時間を注ぎ込んできた先にあるのが東京オリンピック。中学3年生の時に新競技に採用されることを知り、「大きな目標ができました」と話す。スケートボードの初代女王への期待がかかる中、競技全体の注目度が上がったことを肌で感じている。

「以前より取材が多くなり、興味を持ってくれる人も増えました。学校の友達も『オリンピックに出られるように頑張って』と凄く応援してくれる。『テレビでCM見たよ』など言われた時に頑張ろうと思う。メダルを獲ったらパーク(練習場)や競技人口が増えると思います」

 盛り上がるスケートボード界を支えているものの一つが、スポーツくじ(toto・BIG)の収益による助成金だ。競技を楽しみ、レベルアップするには欠かせないスケートボードパーク施設の整備事業や大会の開催にも活用されている。全国に練習場が増えつつあり、四十住選手は「オリンピック競技に決まってから女子のスケートボーダーがとても増えました」と反響の大きさを実感。さらに17歳にしてすでに下の世代への競技普及も考えている。

「オリンピックが終わってからの将来の夢は、同じ夢を持った子の応援をしたいです。スクールで教えたいし、自分が英語を話せるようになったら海外遠征に連れて行ってあげることもできる。選手として何歳までできるのかわからないですけど、そういうことができればと考えています」

 まだ「夢中」を知らなかった小学生時代。スケートボードと出会い「大きな夢を持てた」と熱中して成長してきた。オリンピックはテレビでもはっきりと見たことがない。世界の舞台で誰にも負けないまばゆい輝きを放ってきたが、母国開催となったオリンピックの舞台はイメージしづらいという。それでも最後は力強く、「今まで練習を頑張ってきたので、それを全部出し切れるようにしたい。金メダルを獲れるように全部を出し切りたいです」と、大舞台を見据えて話してくれた。

 競技歴6年のスケートボーダーが、今日も夢中になって滑り続ける。

int_71_01

四十住 さくらよそずみ さくら

2002年3月15日、和歌山県生まれ。小学6年生の時に兄の影響でスケートボードを始める。中学1年生で初出場したSSGカップで、レディース部門2位。2016、2017年の全日本アマレディース部門(ストリート)で2連覇した後、パークに専念するようになる。2018年5月の第2回日本スケートボード選手権大会パーク、8月の第18回アジア競技大会(ジャカルタ・パレンバン)、11月の第1回スケートボード・パーク世界選手権(中国・南京)でいずれも優勝するなど、国内外で成績を残した。同年6月にはアメリカアパレルメーカーVANS主催の「Vans Park Series Pro Tour」のサンパウロ大会、2019年の上海大会で優勝。同年のオリンピック国際予選大会「Oi STU OPEN」では準優勝だった。2020年の東京オリンピックでは初代女王の座を狙う。

アンケートにご協力ください。

Q1

本記事を読んで、スポーツくじ(toto・BIG)の収益が、日本のスポーツに役立てられていることを理解できましたか?

とても理解できた
なんとなく理解できた
理解できなかった
Q2

スポーツくじ(toto・BIG)の取り組みに共感できましたか?

とても共感できた
なんとなく共感できた
共感できなかった
送信