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今、部活で「痛い」と言えない君へ 体が壊れても日本一になりたかった大山加奈の願い

今も活躍する一人の同級生に思う「本当に幸せな人生は私と彼女のどちらか」

 大山さんは怪我を押してでもプレーしたから成功体験を得て、日本一になり、脚光を浴び、名声を得たという側面もある。もし、あの時に無理をせずに過ごしていたら……。

 スポーツにタラレバはない。しかし、そんないじわるな見方にも大山さんは真正面から向き合う。

「引退直後くらいまでは小・中・高で日本一を獲ったことをすごく誇りに思っていました。でも、今は別に日本一にならなくても良かったんじゃないかと正直、思っているんです。それより、心も体も健康に元気に長くプレーできていた方が幸せだったんじゃないか、と思うところがあって。

 それは、特に同期で頑張っている荒木絵里香を見ていると、すごく痛感させられます。絵里香の場合は小・中はそれほど本格的にバレーボールをやっていなくて、中学は県大会1回戦負けのレベル。だけど、今もこの年齢で輝いている。本当に心から楽しんでバレーボールができているので」

 そして、ふと思考が巡る。「本当に幸せな人生は、私と彼女のどちらなんだろう」と。もちろん、答えはない。ただ、一方で「皆さんに小・中・高の日本一をすごいと言っていただくのですが……うーん、それはすごいことなのかなと、今は思います」というのも偽らざる本音だ。

 繰り返すが、大山さんは決して日本一を目指し、努力することを否定しているわけではない。

 しかし、日本一を目指し、努力をすることだけがすべてではない、とも思う。

「今、こうやって大人になって振り返った時、バレーボールをやっていて良かったと思うことを仲間に聞いたら、絶対に勝ったこと、日本一になったこととか、春高に出たこととか、そんなことじゃないんです。もっと、別のところにあるので。

 私の場合は一生の仲間ができたことです。大人になった今でもつらいこと、苦しいことがあったら、そばにいてくれるのは当時の仲間たち。彼女たちに出会えていなかったら、今の自分はいないと思えるくらいの存在なので。

 これはバレーボールを頑張ってきたからこそ、手に入れることができたものだと思っています。そういう意味でも日本一になったことは関係ない。日本一になったから、今の仲間がいるわけじゃない。一緒に頑張ってきた日々があるからだと思うので」

 五輪にまで出場したアスリートが口にした言葉は重い。だが、大山さんは「きっと、どのアスリートに聞いても、そうじゃないですか? 五輪に出たこと、金メダルを獲ったことと言う人いないんじゃないかと、私は思います」と付け加えた。

 こうした問題はバレーボールに限らず、投手の投げすぎで肘の故障が起こる野球、過度な走り込みで疲労骨折、無月経などの健康障害が起こる陸上長距離など、問題の本質は一緒だ。最後に「今、部活で『痛い』と言えない子にどんな言葉を届けたいですか?」と聞いた。

「なりたい職業があるのであれば、それをイメージしてほしい。そうすると、どんな職業でも健康な体は必要になると理解できます。女の子であれば、私のように怪我で妊娠・出産で不安を感じることもあります。自分が望む未来を手に入れられるように今を大事にしてほしいと思います。

 理想を言えば、将来も健康でやりたいことがなんでもできて、年を取っても元気でいられるように、大きな怪我を絶対に負ってほしくないという思いはあります。ただ、そんな先のことはなかなか今の中・高校生には見えないと思うし、考えられないということは分かっています。

 でもこうやって発信することで、ちょっとでも中高校生の耳に、頭に入ることで少しは意識が変わるとも思います。今は素直に受け止められなくても、将来どんな自分でありたいか、どんな人生を歩みたいかを想像を膨らませて、ちょっとでも胸に留めておいてくれたらうれしいです」

 この記事を読み終えたら、ほんの5分でいい。思考を巡らせる時間を、取ってみてほしい。

 中高生へ。競技を何歳まで続け、将来はどんな人間になりたいですか?

 指導者へ。子供たちに競技を通じ、どんな大人に育ってほしいですか?

 自分の「目標」と「目的」の違いを考え、理解すること。それが、大山さんの願いでもある。

■大山加奈

 1984年生まれ、東京都出身。小2からバレーボールを始める。成徳学園(現下北沢成徳)中・高を含め、小・中・高すべてで日本一を達成。高3は主将としてインターハイ、国体、春高バレーの3冠を達成した。01年に日本代表初選出され、02年に代表デビュー。卒業後は東レ・アローズに入団し、03年ワールドカップ(W杯)で「パワフルカナ」の愛称がつき、栗原恵との「メグカナ」で人気を集めた。04年アテネ五輪出場後は持病の腰痛で休養と復帰を繰り返し、10年に引退。15年に一般男性と結婚し、今年妊娠を公表した。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)

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